毎月発行の税務お役立ち情報を一部公開しています。
税務お役立ち情報をご希望の方は、切手1200円分(1年間)を送って頂ければ送付いたします。
少数与党による国会運営で注視された3月31日の参院本会議では、衆院で法案修正された所得税法等の一部を改正する法律が参院本会議で年度内に成立し、即日公布されました。所得税関係では当初の税制改正法案から修正案が示された所得税の基礎控除の上乗せ特例があります。また防衛財源確保のための防衛特別法人税の創設や、子育て支援に係る措置として生命保険料控除・住宅ローン控除等の拡充があります。ここでは特に話題となった103万円の壁にかかわる所得税の改正を取り上げます。
■所得税の人的控除関係の改正 -適用は年末調整時 ・事務負担増は避けられない-
所得税の基礎控除、給与所得控除の控除額の引上げ、配偶者控除や扶養控除の合計所得金額要件の引上げ、新たに「基礎控除の特例」や「特定親族特別控除」が創設されます。
これらはいずれも令和7年分の所得税から対象となりますが、会社が従業員等に毎月給与等を支払う際の源泉徴収時の適用ではなく、令和7年12月の年末調整で改正制度を反映します。
時間はあるとはいえ、この複雑な制度をそれぞれの従業員さんごとに把握する事務負担の増加は避けられません。
■基礎控除の特例は所得に応じて控除額を加算 -48万円が58万円に、ただし特例で複雑に-
所得税の基礎控除では合計所得金額2,350万円以下の者の控除額が10万円引き上げられ58万円となります。
さらに所得に応じて基礎控除の額を加算する「令和7年分以後の各年分の基礎控除等の特例」(「基礎控除の特例」)が創設されます。
■基礎控除の特例とは -2年間だけ適用される制度-
合計所得金額が「①132万円以下」では、基礎控除の額は58万円に37万円を加算して95万円に、
「②132万円超336万円以下」は30万円加算で88万円、
「③336万円超489万円以下」は10万円加算し68万円、
「④489万円超655万円以下」では5万円加算で63万円となる。
①の基礎控除の額の加算は恒久措置だが、②③④の加算は令和7年分及び令和8年分の時限措置とされる。
■給与所得控除の引き上げ -55万円から65万円に引き上げ-
一律ではなく、給与等収入190万円以下までが65万円の控除額となります。
■配偶者控除に係る同一生計配偶者や、扶養控除に係る扶養親族の合計所得金額の要件については、48万円以下から58万円以下に引き上げられ、若干は扶養になりやすくなります。
奥様の配偶者控除は現在給与は103万円以下が条件でしたが、123万円(123-65=58)になります。
■新設の「特定親族特別控除」は子等の所得123万円以下が対象-2年間だけの大学生世代の子への対応-
「特定親族特別控除」の創設により、特定親族(19歳以上23歳未満の親族で合計所得金額が123万円以下の控除対象扶養親族に該当しない者)を有する者は、特定親族の合計所得金額が58万円(給与150万円)超123万円((給与188万円)以下まではその所得金額に応じて、63万円から3万円の範囲で控除額が逓減する控除を受けることができます。今までアルバイトで103万円超えると扶養控除できなかったのですが、大幅増額です。
■勤労学生の合計所得金額の要件も、75万円以下から85万円以下に引き上げられます。
給与収入150万円(給与所得控除65万円+勤労学生控除85万円)までは所得税がかからないことになります。
■中小企業投資促進税制について
中小企業の設備投資を支援する中小企業投資促進税制が、令和7年(2025年)改正で若干の見直しで令和9年3月31日まで2年間延長されました。給与増額による税額控除とともに活用しやすい制度ですのであらためて概要をご紹介します。
■中小企業投資促進税制とは
中小企業投資促進税制は、中小企業における生産性向上等を図るため、一定の設備投資を行った場合に多めに減価償却費を計上できる特別償却(30%)または税額控除(7%)のいずれかの適用を受けることができる制度です。
(注)税額控除は資本金3,000万円以下の法人、個人事業主のみ適用できます。
特に事前に申請をするとかは必要ありません。業者の方に対象になる機械装置かを確認してください。
■対象事業者
次の①または②の法人
①青色申告書を提出する中小企業者(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合、商店街振興組合等)
② 従業員1,000人以下の個人事業主
措置の内容
① 資本金3,000万円超の中小企業 ・・・取得価格×30%(特別償却)
② 資本金3,000万円以下の中小企業・・・取得価格×30%(特別償却)または 取得価格×7%(税額控除)
業種についてはほとんどの事業が適用できます。
■対象設備 中古品は適用できませんのでご注意ください。
設備(注1) | 取得価額要件 |
機械装置 | 1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの |
測定工具 検査工具 | 1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの (事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のものを含む) |
一定のソフトウエア | 一定のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの (事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のものを含む) |
普通貨物自動車 | 車両総重量3.5t以上(注2) |
内航船舶 | 内航船舶全て(注3) |
(注1)中古品、貸付の用に供する設備は対象外です。
(注2)普通貨物自動車は、道路運送車両法に規定する普通自動車で、貨物の運送の用に供するものが対象です。
(注3)取得価額の75%が対象となります。
令和7年度税制改正大綱はいわゆる給与の税金がかからない103万円の壁問題の解決策がメインです。ほかにも改正事項がありますが、中小企業にとっては大きな改正はありません。
改正案の内容の概略をお知らせします。ただし現段階では国会で議論中であり、例年のように税制改正大綱がそのまま決定するとは言えないようです。
【所得税関係】
(1)基礎控除の引き上げ
①基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の基礎控除額を10万円引き上げ58万円となる。
②上記①の見直しの結果、基礎控除の額は次のとおりとなる。
イ 合計所得金額が2,350万円以下である個人58万円
2,350万円を超え2,500万円以下は段階的に引き下げ最低16万円とする。
(注1)上記の改正は、令和7年分以後の所得税について適用する。源泉徴収については、令和8年1月1日以後に支払うべき給与等又は公的年金等について適用されますので、事務負担は年末調整の時まで特にありません。
(2)給与所得控除の引き上げ
①給与所得控除について、55万円の最低保障額を65万円に引き上げる。
(注)上記の改正は、令和7年分以後の所得税について適用する。なお、給与所得の源泉徴収税額の算出率の表の改正は、令和8年1月1日以後に支払うべき給与等について適用する。
(1)と(2)により給与の場合123万円(改正前103万円)までは税金がかからないことになります。
(3)特定親族特別控除(仮称) 大学生年代の子の親への特別控除の創設
人手不足の中、特に大学生のアルバイトの就業調整について、税制が一因となっているとの指摘解消のため。
①19歳以上23歳未満の大学生年代の子等の合計所得金額が85万円(給与収入150万円に相当)までは、親等が特定扶養控除と同額(63万円)の所得控除を受けられ、また、大学生年代の子等の合計所得金額が85万円を超えた場合でも親等が受けられる控除の額が段階的に逓減する仕組みとする。
(注)給与所得者については令和7年分の年末調整において適用できることとする。
(4)上記(1)から(3)までの見直しに伴うその他の措置
①同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件を58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げる。
②ひとり親の子の総所得金額等の合計額の要件を58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げる。
③勤労学生の合計所得金額要件を85万円以下(現行:75万円以下)に引き上げる。
(注)上記の改正は、令和7年分以後の所得税について適用する。
【法人税関係】・令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用する。
(1)中小企業者等の法人税の軽減税率15%の特例について、次の見直しを行った上、適用期限を2年延長する。
所得の金額が年10億円を超える事業年度について、所得の金額のうち年800万円以下の金額に適用される税率を17%(現行:15%)に引き上げる。高額利益先ですので一般的中小企業には影響なしです。
(2)防衛特別法人税(仮称)の創設 納税500万円以上の場合の適用です。
・法人税額に対し、税率4%の新たな付加税を課す。
・課税標準となる法人税額から500万円を控除する。